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花盛り朗読




梅の古木

Posted by 小林大輔 on 06.2014 日記 0 コメントを投稿
「ねえ、パパ、梅の実が落ちているのよ。早く枝からもいでよ・・・。」

 声を出して朗読の練習をしている私の書斎に、家内がやって来てそう言った。

 梅雨に入る前の晴天続きに、確かにそう言われていたのだが、あまりの日射しの強さに恐れをなして、収穫するのを忘れていた。

 ガラス窓越しに庭を見ると、関東地方も始まったという梅雨に、今日はあの梅の古木も、他の木々の緑に混じってしとどに濡れている。
「うーん、雨に濡れるけれど、今日やるか・・・。」
と私は重い腰を上げた。

 梅雨とは良く言ったもの、梅雨に入って梅の実をもぐか・・・など、つまらぬことを思いながら、私は庭に出た。

 春先、あたりに良い香りを放っていた白梅が、今はこんなにしっかりした青い実をつけている。
「この木が、良く元気になったものだ・・・。」

 数年前、この梅の古木にカイガラムシが、びっしり付いているのを発見したのだ。
 あんなに夜目にも白い優雅な花をつけて、毎年まもなく春が来ることを告げてくれていた梅の木が、ある年急に元気がなくなった。
 花もチラホラしか咲かない。
 子細に観察すると、何とカイガラムシが、ビッシリ喰いついているではないか。
 私はがく然とした。

「何とかこの木を活かしてくれませんか・・・。」

 出入りの植木職をあわてて庭に呼んで、相談した。

 そこから古木の大改造、カイガラムシ撲滅作戦が始まった。

 職人さんは言った。
「花はもちろん、緑の葉を見ることは、数年は断念してくださいよ・・・荒療治しますから。」
「結構です。何とか活かして下さい。」
 その数年の間に、木にビッシリついたカイガラムシの徹底駆除にかかった。

 農薬散布ではない。木に登っては、木に喰いついたカイガラムシを、手でガリガリとかき落とすのだ。

 職人さん達に混じって、私もやった。

 削り落とす道具は、あれこれ試みた結果、スプーンや洋食のナイフが最も効果的だった。
 歯の鋭いナイフでは、木を傷める。

 この作業の数年、古木はかわいそうに、ほとんど枝という枝を切り落としてまるで坊主。
 あの優雅な姿は、面影もない。
 手術中の若い女性のようだった。

 植木職の努力で、今年の春先、新しい枝に、あの香り豊かな白い花が見事に復活し、実の豊作も予感できた。

 今日、雨の中、新たに伸ばした枝からザルに一杯の大きな青梅が収穫できた。
 古木は見事に活き返ってくれた。来年はもっと実をつけるだろう・・・。

 家内は、広口びんに「何年に漬けた庭のウメボシ」とシールを貼ってある。
 カイガラムシに悩まされた数年だけ、そのビンがない。
 今年から、またそのビンの陳列が再開する。


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